
剣道における「目付け(めつけ)」とは、相手の動きに的確に対応し、先を読み、有利な状況を維持するための視線の置き方・使い方を指します。
剣道の稽古においては、どうしても「打突」にばかり意識が行きがちですが、本当に大切なのは「間合い」とか「目付け」とか、そういう感覚的なものではないかと思います。
1.目付け(模範解答)
全日本剣道連盟公式サイトにある剣道学科審査の問題例と解答例では、「目付け」について以下の通り説明しています。
目付けは、よい姿勢を維持するための目の役割とともに、相手の動きに対して、常に有利な態勢を維持したり、相手の変化に対応するための目の働きのことをいう。目は相手の顔面(目)を中心に、全体を見るようにするのが基本的な方法である。
目付けには、次のようなものがある。
- 遠山の目付け(紅葉の目付け):一点を凝視するのではなく、遠い山を見るように、相手の全体に注目する。
- 二つの目付け:特に相手の剣先とこぶしに着目する。
- 脇目付け(帯越しの目付け):相手の帯(腰)のあたりに目を付けて、相手と視線を合わせないようにする。
- 観見二つの目付け:宮本武蔵のいう、心を見る「観の目」を強く働かせ、現象を見る「見の目」を弱く働かせて現象にとらわれないようにする。
2.遠山の目付け:
相手の全体に注目する
上記の模範解答では、剣道における目付けは「相手の顔(目)を中心に、全体を見るようにする」と書かれておりますが、遠山の目付けとは、この剣道の基本的な視線の置き方そのものであり、遠い山を見るように全体を見る相手の見方です。
個人的には目よりも口元付近に視線を置くのがよいのではないかと思っています。口元あたりを見ていると全体がよく見え、相手の竹刀、両手、足さばき、重心、気の動きを広い視野で捉えられるため、無駄な反応をせず、機会をとらえやすいと思います。
3.二つの目付け:
剣先とこぶしを捉える
相手全体を見る中にも、重要な場所があり、特に相手の剣先と拳に目を付けることという教えです。
現在の剣道では、あまりそのように教わることはないかと思います。
ただ、こういう教えには、必ず2つの側面があり、「相手はそこを見ている」という風にも考えられるのではないかと思います。
4.脇目付け:
相手と視線を合わせない
全剣連が発行する書籍『剣道指導要領』では、「脇目付け」について以下の通り説明しています。
上手に対してまともに相手の顔(目)を見ると、こちらの心が目を通して察知されるおそれがあるので、その場合に、相手の帯(腰)のあたりに目をつけて、相手と視線を合わさないようにする目付けである。相手の帯(腰)を中心に視線を置くことで、相手と目を合わせず気負いを抑え、全体の動きは視野で捉えます。
遠山の目付けのところで、「個人的には口元付近に視線を置く」と書きましたが、その理由は、この「脇目付け」の内容に近いと感じています。
相手の目を見ていると、特に上手の相手と相対したときに、「目線の動きを利用したフェイント」に引っ掛かってしまいます。
5.観見二つの目付け:
宮本武蔵の教え
剣豪宮本武蔵は、著書「五輪書」水の巻において、以下のように説いています。
敵の働きに対する目の付け方は、「大きく広く」ということを心がけて付けるのである。「観」「見」二つの 目 付 という理がある。「観」の目付を強くして、「見」の目付を弱くし、遠い所を近く見て取り、近い所を遠く見て取るのが、兵法のうえでは大切だ。
宮本武蔵の言う「観の目」は心で本質を見る、「見の目」は現象を追うという意味で、剣道では観の目を重視することで、技の前後、気の動き、攻守の機会を捉えやすくなることを言っています。
6.目付けに関するポイント
◎ 竹刀の動きを追わない
初心者が陥りやすいのが相手の竹刀の動きを目で追ってしまうことです。剣先だけを追うとその動きに惑わされ、「居着き」を生みます。
相手の剣の動きに捉われず、視野全体で捉えようとする姿勢が大切かと思います。
◎ 面を適切に着ける
目付けを良くするためには、面をきちんと着けるということが非常に重要な要素だと思います。
初心者の方の中には、面金の並びに「物見」という目線が通る位置(面金の上から6本目と7本目の間)があることをご存じない方もいらっしゃるかもしれませんが、面を着ける時に、きちんと物見と自分の目の高さを合わせてつけることが大切です。
目と物見の高さが合っていないと、顔が上を向いたり、下を向いたりしてしまい、剣道全体に悪影響が出ます。面の着け方だけでは合わせ切れないこともありますので、その場合は剣道具屋さんに行って、相談することをお薦めします。
まとめ
目付けに関しては、実際には「心のおもむくまま」というのが一番だと思います。
というのは、日常生活でも「話をするときには相手の目を見ましょう」と言いますが、相手の目を見ようと意識してしまうとかえって相手の目を見ることができなくなってしまうという経験はないでしょうか?
「こうしなければならない」という強迫観念みたいなものに捉われてしまうのではなく、きちんとした知識を持っていれば、必要な時には必ず必要なものを見ようとするので、「凝視せず、全体を見る」程度のことを意識しておけばよいと思います。