
剣道において「懸待一致(けんたいいっち)」とは、攻め(懸)と待ち(待)が矛盾することなく調和し、一体となっている状態を指します。相手を圧し、崩し、打突の機会をつくり出す中で、自分から攻めながらも焦らず、相手の動きをよく見て機会を待っている心のあり方となります。
1.懸待一致(模範解答)
全日本剣道連盟公式サイトにある剣道学科審査の問題例と解答例では、「懸待一致」について以下の通り説明しています。
「懸」とは相手を攻めたり打ちかかる攻撃の意味で、「待」とは相手の動きを冷静に見極めながら出方を待つ意味である。懸かると待つは表裏一体をなすものであり、攻撃中でも相手の反撃に備える気持ちと態勢を失わず、受けにまわったときでも常に攻撃する気持ちであることが大切である。
これは、あたり前と言ってしまえばあたり前の話なのですが、攻め(懸)に偏りすぎれば反撃を受け、待ちに偏れば消極的となって打たれてしまいます。攻めながらも焦らず、相手を観察し機会を見極める冷静さを持ち、待つ場合でも攻撃的な姿勢を崩さないという教えです。
2.懸(攻め)の意味
「懸」とは、自分から攻めて相手の心の隙・技の隙をつくることを意味します。ここでいう「攻め」とは単に打つことではなく、
- 気勢による攻め
- 竹刀の中心を奪う攻め
- 間合いの攻め
など、相手の心に圧力をかけて優位に立つ行為全般を含みます。攻める意識が強すぎて、単に「物理的に打てる」というだけで簡単に打ってしまうと相手に反撃の余地が残っており、足元をすくわれる可能性があります。
3.待(応じる)の意味
「待」とは、相手の動き・心の動きを観察し、機会を待つことです。具体的には、以下のような機会を待つことと言えます。
- 相手が出てくるのを待つ
- 相手の崩れを待つ
- 相手が技を打ち終わるのを待つ
- 相手の失敗を待つ
これらは全ていわゆる「打突の機会(好機)」と言われる瞬間であり、剣道ではこのような機会を捉えて打つことが求められているのですが、単にこれらの機会を待っているだけでは、相手はしくじるはずもなく、相手に主導権が渡り、ひいては打たれてしまいます。
4.懸待の一致とはどういう状態か
懸待一致とは、「相手に懸かる」ということと「機会を待つ」ということを同時に行うことを言っています。
- 攻めながら(懸)、相手の動きを観て(待)、機会をつかむ
- 待ちながら(待)、常に攻めの気位を失わず(懸)、攻撃する
攻めと待ちは、表現上は分けられていますが、実際には切り離せないものとして働いています。基本的に有効打突が生まれる場面では、
- 気や剣で攻める
- 相手が動く(動かされる)
- その瞬間をとらえて打つ
ということが行われており、懸と待が合わさっていることがわかります。
5.初心者によくあること
❌ 懸かる=やたらと打ってしまう
懸かるとは位置取りや剣先の圧力、気勢、呼吸など多面的な要素があり、単に打てばよいというものではありません。
❌ じっと待ってしまう
初心者は出小手や返し胴といった決まり手が多いため、どうしても相手が打ってくるのを待つばかりになってしまうのですが、待っているだけでは待っている事象は起こりません。
❌ 懸と待がハッキリとしている
懸かる時はやたらと打ち、待つ時はじっと待ってしまうという姿勢だと、相手に狙いが読まれてしまいます。
6.稽古で意識するポイント
稽古の際に重要なのは「懸かる」意識だと思います。もちろんこれは「やたらと打て」という意味ではなく、しっかり攻めるという意味です。待つ心は持とうと意識するというよりも、自然に芽生えるという感じではないかと思います。
剣道の地稽古は、「感覚を磨くこと」に他ならないと思います。そのために必要なのは、4.懸待の一致とはどういう状態かに記載した1〜3のプロセスを繰り返し経験することであり、このプロセスを回すことを意識的に行うことが重要だと思います。
まとめ
剣道では、よく「我慢」という言葉を耳にすると思います。経験の浅い方は、それを「打たれそうでも構えたまま我慢すること」と思ってしまいがちなのですが、必ずしもそうではありません。
剣道でいう「我慢」とは、この「懸待一致」の姿勢を維持するという意味で使われることが多く、しっかりと相手に攻勢をかけつつも、いたずらに打つのではなく、「ここ」という機会が訪れるまで我慢する(待つ)ことを言っています。
また応じ技を狙う場合も待ち一辺倒にならず、待ちながらも攻めて相手を誘い出すことが重要であり、待っていても相手に万全な技を出されてしまえば打たれてしまうのです。